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interview 経営とオフィス

各企業がどのような経営戦略や人材戦略のもとに、オフィス移転を決めたのか?
代表者のインタビューでお届けします。

[ 日本ヒューレット・パッカード株式会社 ]
グローバルリアルエステート本部 本部長 加藤 武彦氏

11月

06

2012

日本ヒューレット・パッカード株式会社 様
“One Team, One Solution”を実現した日本HP本社ビル。

米Hewlett-Packard Companyの日本法人である「日本ヒューレット・パッカード株式会社(日本HP)」は2011年1月、江東区大島に本社ビルの社屋を竣工した。東京周辺に多数分散していたオフィスを集約し、業務の効率化やワークスタイルの改善を図ることが目的であった。直後に発生した東日本大震災の影響で全面開業の時期こそずれ込んだものの、開業後は同社の想定以上の移転効果を上げ、大島本社(愛称HP Garage Tokyo)は世界各国のHPオフィスのベンチマークに位置づけられている。同社グローバルリアルエステート本部本部長、加藤武彦氏に話を伺っ

 

都内13拠点を集約し、不動産コスト半減を目指す

北十間川と小名木川を結ぶ運河である横十間川に面し、猿江恩賜公園の対岸に位置する日本ヒューレット・パッカード本社ビルは、社内公募により「HP Garage Tokyo」の愛称が付けられている。この愛称は、同社の創業者であるウィリアム・ヒューレットとデビッド・パッカードがカルフォルニア州アディソン街にあるデビッドの自宅ガレージで起業したことに因み、「創業の精神を忘れないように」との意味が込められているという。本社ビルは地上9階建て、1フロアあたりの床面積は約1,700坪という都内最大級の基準階床面積を誇る。

「日本HPの本社移転プロジェクトがスタートしたのは2006年のことです。当時は市ヶ谷の本社をはじめ、東京エリアだけで13ヶ所のオフィスが点在していました。このようにオフィスが分散している状態ですと、たとえば会議ひとつ設定するにしても、手間と時間がかかりますし、移動も大変です。また、オフィスの賃料負担も少なくありませんでした」(加藤氏)

 

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ただ、それまでオフィスが各地に分散していたことについては、エンドユーザーとの距離が近いなど、当時としては合理的なメリットがあったという。だが現在では、業務効率の上でデメリットの方が大きくなっている。さらに、2005年以降オフィス市況が貸手市場に転じ、賃料相場が上昇傾向にあったことも、CRE(不動産)戦略の上で大きな負担となっていたようだ。

 

こうした背景に加え、折しも来日した当時の米HP本社CEOマーク・ハード氏の示した「ワークプレース・トランスフォーメーション」のストラテジーが、同社のCRE戦略を決定づけた。

 

「2010年までに、日本HPの不動産関連コストを半減せよ」――加藤氏をはじめとするグローバルリアルエステート本部を中心に、HP本社、社外のコンサルタントもまじえて同社はこの大命題に取り組むことになった。

 

さまざまなシナリオを検討するなかで、同社の不動産関連コストの約85%を占める東京のオフィスコストを削減することで目標を達成できるとの見通しが立てられた。既存ビルへの移転も考えられたが、6000名を超える人員を収容でき、さらに複数の同社ショールームを併設できる規模を持つ物件は簡単には見つからない。そのため、早い段階から自社ビル新築という方針は決まったが、土地の確保が問題となった。都心部では地価が上がり始めた時期でもあり、同社が必要とする面積を確保し、かつ社員の通勤にも影響のない立地を選定するための苦労もあったが、最終的に江東区大島の現在地を購入することができたという。

 

「残念ながら2010年末まで、という目標には届きませんでしたが、翌2011年には不動産関連コストの半減を達成することができました」(加藤氏)

 

 

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東日本大震災の影響と各種ショールームの併設

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日本HP大島本社への移転は、他のオフィスの賃貸期間を少しでも短くして賃料コストを低減するため、内装施工などの工事と並行して2011年2月から順次実施していくことになっていた。まず、大島本社に最も近い錦糸町オフィスから約250名が第一陣として、2月下旬に移転してきた。その直後――3月11日に東日本大震災が発生した。

 

「当初のスケジュールでは5月の連休明けまでに全部署の移転を終了し、5月16日に開所式を行う予定でした。ところが、震災のために約1ヶ月以上移転にストップがかかり、移転スケジュールを見直しました。最終的に、約1ヶ月半遅れの7月初旬に移転が完了しました」(加藤氏)

 

このため、すでに退去するつもりで解約していたオフィスの賃貸期間を延長するなど、加藤氏らグローバルリアルエステート本部のメンバーは事後処理に奔走することになったが、幸い地震そのものの直接的な被害はほとんどなかった。本社ビルでは制震構造を採用していることもあり、移転に向けた作業の途中のためまだ固定されていなかったキャビネットなどの什器がいくつか倒れた程度だという。

 

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「HPでは震災以前からBCP(事業継続計画)を策定し、防災にも取り組んでいますが、震災後は地震に対してだけでなく、津波などの水害も想定してBCPの見直しが行われるようになりました。ここ(大島本社)は目の前が川(横十間川)、また荒川や東京湾も近いので、冠水被害に備えて『下層階から上層階へ逃げる』防災訓練なども実施しています」(加藤氏)

 

震災の影響でもっとも移転が遅れたのが、1階に併設された各種ショールームだ。大島本社の1階は、サッカーコート並みといわれる広大な空間を利用して、さまざまな施設が併設されている。正面玄関から中央部のエントランスは大理石が敷き詰められ、大理石の下には床暖房の装置が備えられている。正面玄関を入って右手に企業顧客向けに商談やデモ、セミナーを行うEBC(EXECUTIVE BRIEFING CENTER) があり、その奥は「IMAGING&PRINTING SOLUTION CENTER」と呼ばれるプリンタやデジタル・イメージングのショールームになっている。さらに、正面玄関左手には「SOLUTION CENTER」。ここでは顧客が実際に同社製品を導入した場合を想定して、自社オフィスと同等の環境でさまざまな状況を検証することができる。また、床の一部がガラス張りになっていて、サーバを設置している免震床の構造を実見することも可能だ。

 

大島本社へは連日、たくさんの来客がオフィス見学に訪れている。多くの見学者が注目するのが、大島本社ビルの構造上の特徴である建物中央を貫く吹き抜けと階段だ。もともと、自然採光による照明の効率化や館内空調の効率化によるCO2削減効果などの目的で設けられた吹き抜け構造であったが、日常的に階段を使用することでエレベーター使用の抑制にもつながり、社員の運動不足の解消にも役立っているという。同社の社内では「3up-3down」という標語が掲げられ、上下3階程度の移動であれば、エレベーターではなく階段を使用することが励行されている。

 

 

社内のどこでも同じように仕事ができる環境を整備

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大島本社の吹き抜けには省エネ効果だけでなく、コミュニケーション活性化の効果もあるのだと加藤氏は言う。

「分散していた拠点を集約する目的のひとつは、社内コミュニケーションの活性化です。階段を使用することで他のフロアのメンバーと偶発的に顔を合わせる機会が増え、フェイス・トゥ・フェイスのコミュニケーションが活発になるという効果もありました」(加藤氏)

 

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階段を下りると、吹き抜けの周囲には幅20cmほどの木製のカウンターが取り付けられている。ここでは、社員同士が立ち話をしながら簡単な打ち合わせ等が日常的に行われている。さらに、カウンターの途中には一段低くなっている部分があり、そこは同社が雇用している障害者の社員に合わせた高さなのだという。

 

大島本社ビルの2階には来客のための応接スペースと会議室、トレーニング用の教室が多数設置され、4階から7階までがオフィスワーカーの執務エリアになっている。執務エリアの各階は4面にバルコニーが設置され、自然採光と直射日光の遮蔽を両立するとともに、外部柱もバルコニーに設けることで室内はレイアウトの自在な無柱空間となっている。

 

 

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執務エリアはフリーアドレス制が導入され、オフィスワーカーの70%以上は固定席を持っていない。一般的なフリーアドレスオフィスでは、固定席がない代わりに私物収納用のキャビネットを与えているところが多いが、同社の場合、キャビネットの使用さえも共用で、一時的な使用に限定しているという。その理由について、加藤氏は「個人用のキャビネットを与えると、けっきょくはそこに個人の書類などを溜めこんでしまうため」と説明する。徹底している、と舌を巻かざるを得ない。

「その代わり、社内のどこででも仕事ができる環境は整えています。執務エリア内はもちろん、各階西側のバルコニーにもテーブルと椅子を設置し、無線LANがつながるようになっています。また、8階のカフェテリアのテーブルにも電源がついていますから、基本的にどこの席でも同じように仕事ができるようにしています」(加藤氏)

また、執務エリア内の席も、ファミリーレストランにあるような背もたれの高いベンチや、座の低いソファなど、さまざまなバリエーションが用意されている。場所を変えることができても、どこも同じような環境ばかりでは発想が硬直化してしまう。バルコニーのテーブル席やカフェテリアの席も含め、使用可能なワークスペースに多くの選択肢を与えることで、オフィスワーカーの自由な発想をうながす効果が期待できるのである。

「2002年のコンパック、2009年のEDSジャパンとの合併を経て、今回の本社移転と続きました。それまでさまざまな環境で仕事をしてきた社員を1ヶ所に集めたわけですから、それぞれのワークスタイルに合った『仕事をしやすい環境』をつくっていくことが重要なのではないかと考えています」(加藤氏)

 

 

大島本社での試みがHPのベンチマークとなる

9階は発電機や空調、電気関係の機械類が設置されているため、社員がふだん利用する最上階は8階である。8階のカフェテリアは、旧来の「社員食堂」のイメージとは隔絶したものとなっている。

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「ここのつくりはフードコートをイメージしています。和・洋・中華はもちろん、イタリアンもあれば焼きたてのパンもあり、ラーメンやカレーもそれぞれ専門のコーナーがあります。17時半以降はアルコールも販売していますので、社内の打ち上げやパーティに使われることもよくあります」(加藤氏)

毎日違うメニューを選んでも、2ヶ月や3ヶ月では食べきれないほどのバリエーションが用意されている。さらに、南面と北面には広い屋上テラスがつくられ、天気の良い日はそこで食事をすることもできる。

これらの試みは、すべて「社員が、会社にいる時間を快適と感じるように」という発想から生まれている。会社にいる時間が苦痛なら、良い仕事はできず、生産性も上がらない。逆に、居心地の良い環境をつくれば、社員一人ひとりがごく自然に仕事に対して前向きに取り組むようになり、それが業績にも反映されるのではないだろうか。

そのひとつの証明となるのが、大島本社移転後の同社に対するHPグループ内での評価である。前述したように、移転途中に東日本大震災が発生したため、同社は通常業務はもちろん移転作業にも甚大な影響があった。にもかかわらず、2011年における同社の業績は、世界各国のHPグループの中でも優秀なものであったという。

「日本HPは2011年度すばらしいチームスピリットを発揮した国として表彰されました。新CEOのメグ・ホイットマンをはじめ本社の経営陣は『大島本社を、世界のHPグループのオフィスのベンチマークに』との考えを示していただいております」(加藤氏)

未曽有の災害を乗り越えて、同社が優秀な業績を収めることができた理由を、代表取締役社長執行役員の小出伸一氏は「One Team, One Solution」の成果であると分析している。同社が日本HPというチームとして、お客様にとって最適なソリューションの提供に取り組んできたからこそ成し得たことだというのだ。

「全社員がHPという一つのチームとしての意識を持てるようになったとすれば、この大島本社も多少は貢献できたのではないかと自負しています。今後も、微力ながら会社の成長に貢献していきたいですね」(加藤氏)

 

 

 

 

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