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interview 経営とオフィス

各企業がどのような経営戦略や人材戦略のもとに、オフィス移転を決めたのか?
代表者のインタビューでお届けします。

[ 株式会社サイバード ]
マーケティング統括本部 マーケティング戦略部 広報G 山下 伸一郎

12月

26

2012

株式会社サイバード 様
“モノ創り” の原点回帰を目指すサイバードの新拠点。

1998年9月に西麻布で産声を上げた「株式会社サイバード」は、2年後に神谷町へ移転し、さらにその3年後、竣工したばかりの六本木ヒルズ 森タワーに入居する。そして2011年1月、現在の「マンサード代官山」に移転した。すべてのオフィス環境が整ったヒルズから敢えて「卒業」したのは、自分たちの働く場所は自分たち自身の手で一からつくっていこうという考え方があったからだという。同社はどのような理由から代官山というステージを選び、そこにどのような本社オフィスを構築したのか。同社マーケティング統括本部マーケティング戦略部広報G・山下伸一郎氏に話を伺った。

 

サイバードらしさを追求し、移転プロジェクトを始動

都内最大級のターミナルステーションである渋谷駅から東急東横線で1駅目にある代官山駅。渋谷区を代表する文化圏「代官山エリア」の中心地である。駅正面口にはランドマークである「代官山アドレス」がそびえ、おしゃれなカフェやレストラン、アパレルショップやヘアサロンなどさまざまな店舗が軒を連ねている。2013年には東京メトロ副都心線との相互乗り入れによる直通運転開始も予定されており、今後ますます多くの人が集まる街へと成長していくことが見込まれている。

代官山アドレスを右手に見ながら並木橋方向へ進むと、東横線線路方向に伸びる道とのT字路になった交差点があり、進行方向の左手、T字路の突き当たりに前面ガラス張り10階建てのデザイナーズビルが見えてくる。1階のガラス窓には、波に乗るような流麗なレタリングで「THEATRE CYBIRD」と真紅の文字が描かれている。2009年12月竣工の「マンサード代官山」――ここに、「モバイルでスマイル!」を合言葉に、モバイルサービスの提供やモバイルビジネスの支援など、さまざまな事業を展開するサイバードグループの本社が入居している。

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1階の「THEATRE CYBIRD」。各種イベントが開催される表現や発信の空間

 

「こちらに移転する前、当社は『六本木ヒルズ 森タワー』22階に入居していました。オフィスとしての利便性だけでいえば、文句のつけようのないビルだったと今でも思います。グループ全体が1フロアに集約されていたことで相互のコミュニケーションも取りやすく、設備も最新のものが充実していましたから……。ただ、2010年ごろから、目先の利便性だけでなく当社のアイデンティティ、つまり『サイバードらしさ』というものを大切にするべきではないかという気風が高まってきたのです」(山下氏)

同社のアイデンティティについて、山下氏は“モノ創り”と表現する。i-modeのサービス開始とともにさまざまなモバイルサービスを生みだし、数多くのサイトを立ち上げて運営してきた同社だが、その根底にあるのは、当時も今も変わらない“モノ創り”の精神である。“モノ創り”とは、突き詰めれば、無から有を生みだすことに等しい。「それまでどこにもなかった、まったく新しいモノ」を創造するには、誰かが用意してくれた至れり尽くせりの環境にいつまでも安住していてはいけないと考えたのである。「“モノ創り”の原点に立ち返ろう、ということで、当社CEO 堀 主知ロバートが中心になって本社移転を検討し始めたのが2010年初頭でした。経営企画・総務・財務をはじめ、各実務部門からも人員を選出し、総勢約20名から成るプロジェクトメンバーによる本社移転プロジェクトがこうしてスタートしたのです」(山下氏)

 

 

創造性と独創性にあふれた代官山というエリアを選定
毎月第3週末に開催される「代官山マルシェ」で地域活性化に貢献

毎月第3週末に開催される「代官山マルシェ」で地域活性化に貢献

「THEATRE CYBIRD」ではライブなどのイベントも開催

「THEATRE CYBIRD」ではライブなどのイベントも開催

移転先の選定に関しては、同社は「エリアの特性」と「物件のキャパシティ」などいくつかの条件を念頭に慎重に選定を重ねていった。その際、いわば反面教師として、当時入居していた「六本木ヒルズ 森タワー」のオフィス環境を改めて分析してみたという。その結果、ヒルズ自体がひとつの区切られた空間であり、社員は「六本木という街」に通勤しているという意識をほとんど感じていなかったということがわかった。本社のあるビルが地下鉄の駅に直結し、雨の日でも傘を差さず、靴を濡らさずに出勤できる――それはたしかに恵まれた環境に違いない。だが、その一方で「地面の上を歩き、街を肌で感じる」機会が失われていることに気づいたのである。山下氏はこれを「地に足の着いていない状態」と表現した。

「今、どんなモノが流行っていて、どんな店に人が集まっているのか? そういう情報は、現在ではインターネットでも調べることができます。しかし、そこで手に入るのは『デジタル化された情報』に過ぎません。クリエイティヴィティを育てるためには、ほんとうの意味での『ナマの情報、生きた情報』に接する機会を、日々の仕事や生活の中で日常的に得られる環境をつくらなければならないと考えました」(山下氏)

こうして、いくつかの候補の中から、代官山というエリアが浮上する。同社の分析によれば、代官山は「創造性・独創性にあふれ、唯一無二のブランドを発信する魅力的な街」であり、関連会社を含めて約600名の人員を収容できるキャパシティを持った「マンサード代官山」という物件を擁していた。契約当時、同物件は竣工1年未満の新築未入居ビルであり、内装はほぼスケルトン状態にあったという。同社はここに、自分たちの手で新しい本社オフィスを構築することになったのである。

「新オフィスのコンセプトは“One to only oneの舞台”。すなわち、only oneのサービスを提供する企業となるための、ステップアップの場や機会を創出することをゴールとしています」(山下氏)

コンセプトの策定に当たり、同社は旧オフィスの経営戦略上の課題や問題点を抽出し、コンセプトの決定から新しいオフィスのあるべき姿を模索する間に300枚以上の資料を積み上げたという。“One to only oneの舞台”で表現したい演目として、同社は「Subjective=自主的な」「Creative=独創的な」「Unique=他には存在しない」「Individual=個性的な」という4つのキーワードを掲げている。これは、たんなるオフィスの引っ越しではなく、代官山というエリアとの融合を図ろうという同社の意識のあらわれである。

「代官山との融合」を推進するための具体的な舞台装置のひとつが、1階に構築された多目的イベント空間だ。「THEATRE CYBIRD」と名づけられたこのスペースは、社内の表彰式や会社行事に使用されるだけでなく、月に1度「代官山マルシェ」という産地直送の生鮮食材市場が開かれるなど、地域の住民と一体化したさまざまなイベントが開催されている。

 

 

驚きとセンスを演出するデザインとネーミング
2階エントランス。植栽の緑と床の木目が「自然」を感じさせる

2階エントランス。植栽の緑と床の木目が「自然」を感じさせる

2階窓際。天井高を活かした大きな窓が開放的な雰囲気を演出する

2階窓際。天井高を活かした大きな窓が開放的な雰囲気を演出する

10階建ての同ビルのうち、同社は1階から7階までをサイバードグループでほぼ占有している。1階に「THEATRE CYBIRD」、2階にはエントランスと来客用の応接室や会議室が配置され、3 階以上が執務スペースとなっている。

2階エントランスの床の素材は、バーンボード(廃屋の壁装材)を再利用した床材でつくられている。これは、見た目もユニークで、歩き心地も森の中の遊歩道のように自然を感じさせるだけでなく、環境面にも配慮されている。ところどころ、床に穴を空けて植栽のスペースをつくっているのもオリジナリティあふれる空間設計だ。

「自然を基調とした、見る人に驚きとセンスを演出するデザインを心がけました。植栽の世話は業者に委託しています」(山下氏)

2階の壁装材にはトタン板が使用され、受付カウンターの背後にある壁にはさまざまな色の「手形」が一面に捺されたスペースがある。この手形は、新本社への移転直後に同社の社員が一人ひとり捺したものであるという。手形と手形の間にはそれぞれの社員たちの新本社に賭ける意気込みがメッセージとして残されている。

 

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「もともとは新本社オープン時のイベントのために用意したメッセージボードでしたが、おもしろいデザインだったのでそのまま残すことにしました。エントランスの背面壁として使用するために、後から『CYBIRD GROUP』のコーポレートロゴを付け加えたのですが、これも社員の手によるものです」(山下氏) また、執務エリア内の席も、ファミリーレストランにあるような背もたれの高いベンチや、座の低いソファなど、さまざまなバリエーションが用意されている。場所を変えることができても、どこも同じような環境ばかりでは発想が硬直化してしまう。バルコニーのテーブル席やカフェテリアの席も含め、使用可能なワークスペースに多くの選択肢を与えることで、オフィスワーカーの自由な発想をうながす効果が期待できるのである。

 

正面と左右の壁に緑を使用した大会議室は「大地」と名づけられた

正面と左右の壁に緑を使用した大会議室は「大地」と名づけられた

明るい黄色が特徴的な小会議室には「向日葵」の名称が与えられた

明るい黄色が特徴的な小会議室には「向日葵」の名称が与えられた

応接室や会議室は部屋ごとにそれぞれ一面の壁だけカラーを変えており、紫の部屋は「桔梗」、オレンジの部屋は「橙」、黄色い部屋は「向日葵」など、色に合わせてネーミングされているが、この名称が決まった経緯も「サイバードらしさ」を感じさせるユニークなエピソードだ。

「移転前の2010年に行われた社員のクリスマスパーティで、ゲームの優勝者に2階の部屋のネーミングライツ(命名権)が与えられました。優勝したのは当時新卒3年目だった男性社員で、彼のアイデアで各部屋の名称が決められたのです」(山下氏)

ネーミングといえば、3階から7階にも当然、社内のミーティングに使用するための会議室が各階にそれぞれ設けられているのだが、これらの部屋はそのフロアを使用する部署ごとに自由にネーミングされているという。その結果、同じ会社のビル内にある同一規格の会議室でありながら、ある階では「アップルパイ」、またある階では「海」、さらに別の階では「C-5」など、まるで統一性のない名称で呼ばれることになった。これもまた、自主性と創造性を重んじる同社ならではの特徴といえる。

「名称だけでなく、内装デザインや什器の選定についても各部署の自主性と裁量に任せている部分が大きいですね。たとえば、ある部署では、立ったままで簡単な打ち合わせができるスタンディングテーブルを採用するなど、『自分たちのオフィスは、自分たちの手でつくろう!』という考え方に基づき、それぞれが働きやすい環境をつくっています」(山下氏)

 

 

社員の意識の変化とともにワークスタイルも変革する
広い窓で採光の良い執務スペース。パーティションの色などは各部署の裁量で選んでいる

広い窓で採光の良い執務スペース。パーティションの色などは各部署の裁量で選んでいる

六本木ヒルズから代官山に移転することに関しては、社員の意識やモチベーションが低下するのではないかとの懸念もあったという。至れり尽くせりの環境から一転して、何もかも自分たちでつくらなければならないという環境の変化。また、1フロア集約から7フロアに分散することで社員間・部署間のコミュニケーションが阻害されてしまうかもしれないという不安もあった。

だが――移転から2年弱(取材当時)を経過した現在、これらの懸念や不安は杞憂であったと山下氏は力強く断言する。

「急に環境が変わったことでの戸惑いはしばらくあったようですが、おおむねスムーズに変化を受け入れてくれたようです。通勤のときなど『街を感じるようになった』という社員の声をよく耳にします。これはヒルズ時代にはなかったことです」(山下氏)

 

5階オープンエリアでは気分転換のためのゲームも設置されている

5階オープンエリアでは気分転換のためのゲームも設置されている

また、移転と同時にワークスタイルの見直しも進められた。

「今回の移転を機に、当社では『21時消灯』を導入しました。21時になったら強制的に全館の電気を消してしまうのです。その後の時間は、スキルアップに充てるなり、家族サービスするなり、自分たちの自由に使ってくださいという考え方です」(山下氏)

これもまた社員の自主性を高める工夫であるが、移転前に比べて社員一人当たりの残業時間が低減するという効果ももたらした。さらに、懸念されたコミュニケーションの低下については、1階の「THEATRE CYBIRD」で毎月開催される「居酒屋サイバード」をはじめ、外部講師を招いてのセミナーや最新ファッションアイテムの展示会などのイベントを通じて、部署間のコミュニケーションは円滑に保たれているという。

 

サーバルームには床免震が施され、大切な顧客情報を保護している

サーバルームには床免震が施され、大切な顧客情報を保護している

2011年1月末に新本社への移転を完了した同社だが、そのわずか1ヶ月後には3.11大震災が発生した。内装工事が終わってまもない時期だったため、壁やガラスの一部に小さな亀裂が生じたものの、こうした事態を想定して顧客情報を管理するサーバルームは免震床になっており、また代官山周辺は特に地盤が固いということもあって建物自体はほとんど被災しなかったという。

「ただ、震災をきっかけとして社内の防災意識は間違いなく高まりました。飲料水や食料、非常用トイレや防災グッズなどの備蓄もしっかり行っています」(山下氏)

また、福島第一原発の事故以降、同社は節電にも積極的に取り組んでいるという。使っていない部屋の電気はこまめに消灯する習慣とともに、「2up-2down」を標語に上下2フロア程度の移動には階段を利用する社員が多いことも節電効果を高めている。

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