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interview 経営とオフィス

各企業がどのような経営戦略や人材戦略のもとに、オフィス移転を決めたのか?
代表者のインタビューでお届けします。

[ ヒューリック株式会社 ]
執行役員 開発推進部長 浦谷 健史氏一級建築士

3月

28

2014

ヒューリック株式会社 様
オフィスビルのプロトタイプとして多くの試みを導入した新本社。

ヒューリック(HULIC)とは「 HUMAN(ひと)」「LIFE(生活)」「CREATE(創造する)」の合成語であるという。「快適をつくる。安心をひろげる。」をグループスローガンに掲げ、都心部の中規模オフィスビルを中心に不動産の所有・賃貸・売買および仲介業務を展開するヒューリック株式会社は、2012年9月に日本橋大伝馬町に自社ビルを新築して本社を移転した。同社が顧客に提供しているオフィスビルのショールーム機能を持たせるという狙いで建てられた「ヒューリック本社ビル」では、防災・BCP・環境配慮などさまざまな新開発の技術がテストケースとして導入されているという。同ビル新築の中核を担った同社執行役員開発推進部長・浦谷健史氏に話を伺った。

 

着工直後に震災発生も影響を最小限に抑えて竣工

中央区の北寄りのエリアは、中心部にある日八京(日本橋・八重洲・京橋)や銀座などのエリアに比べて、比較的築年数の経過した高さ4~8階建て程度の小型・中型ビルが集積するオフィス街となっている。東京の中心という立地の割には賃料相場に値ごろ感があり、交通の利便性も高いエリアだが、まとまった面積の確保が困難なため、社員数の少ない成長途上にある企業や、賃料コストを抑えたい中堅企業などがテナントの多くを占めている。

東京メトロ日比谷線の小伝馬町駅から徒歩2分少々、大通り沿いの日本橋大伝馬町7丁目に2012年9月、地上10階・地下1階・塔屋1階建ての新築ビルが竣工した。カーテンウォールに細いルーバーによるラインが入った上質感のあるファサードで、正面上部にはアルファベットの「H」を向かい合った2人の人物が手を互いに伸ばすように図案化したロゴマークが掲げられている。「ヒューリック本社ビル」と命名された同ビルは、「ヒューリックビルド株式会社」「ヒューリックビルマネジメント株式会社」「ヒューリック保険サービス株式会社」「ヒューリックホテルマネジメント株式会社」「ヒューリックオフィスサービス株式会社」「ヒューリック銀座株式会社」「HULIC UK Limited」から成るヒューリックグループを統括するヒューリック株式会社の新しい本社所在地である。

 

「以前の本社は、日本橋髙島屋のある日本橋2丁目の共同所有のビルで他のテナントと同居していました。利便性は抜群でしたが、数年前から再開発計画が進められていたこともあり、いずれ移転することは規定事項でした。移転先としては、自社ビルを建設するということは決定していましたが、本社所在地が遠くへ動くことは望ましくないので、中央区内で建設地を探し、この土地を本社移転候補地として確保しておりました」(浦谷氏)

現在同ビルが建っている土地は、以前は3棟の小型ビルが建っていたという。2009年春頃から計画が本格的にスタートし、本社ビルの新築に着工したのが2011年2月のこと。その直後に、3.11大震災が発生した。

「震災による工事の中断で、工期には若干の影響が出ましたが、もともと耐震性の高い安心・安全なビルを建てるという計画で設計していたので、建築計画の大幅な見直し等の必要はありませんでした。強いていえば、津波災害を想定した浸水対策を追加した程度です。直接的な影響としては、免震装置に使用するゴムの製造工場が震災後の計画停電の影響を受けたため、この部分の工期に遅延が生じることになりました」(浦谷氏)

当初、工期の遅れは約4週間と計算されていたが、スケジュールを再検討するなどで調整し、最終的には初期計画から約2週間の遅れで無事竣工を迎えることができた。

 

MITとの共同研究で生まれた省CO2型ビルのプロトタイプ

新本社ビルのコンセプトは「安心・安全」「環境」「快適」。これらは言うまでもなく、同社が主力商品として顧客に提供している賃貸オフィスビルすべてに共通するキーワードである。ただし、同ビルの場合、建築時点で同社が保有しているオフィスビルの最新技術が「すべて盛り込まれている」と浦谷氏は言う。既存の物件に導入されている技術はもちろん、同ビル新築プロジェクトと同時期に並行して進められてきた米マサチューセッツ工科大学(MIT)との共同研究により、新たに開発された技術もいくつもある。

そのひとつが、同ビル屋上に設置されたソーラーチムニー(ガラス張りの換気シャフト)と北側のカーテンウォールのバランス型定風量換気装置による自然換気システムである。ソーラーチムニー内には蓄熱材が設置され、太陽熱蓄熱効果を利用してシャフト内の空気を暖めることで対流をつくりだし、自然換気効率を高めている。これにより、たんなる機械空調の補助にとどまらず、春・秋などの中間期には自然換気のみによる空調を実現しているという。

屋上庭園からの眺望。「東京スカイツリー」がちょうど正面に見える

屋上庭園からの眺望。「東京スカイツリー」がちょうど正面に見える

また、同ビルの5階以上のオフィスに導入されたアニドリックルーバー(特許出願中)は、動力の不要な固定ルーバーでありながら特殊な形状により太陽の位置・高度の変化に影響されず常に太陽光を室内天井面に採り入れることを可能とした。天井材には反射効率の高い金属パネルを採用し、ここからオフィスのデスク上に均一な自然光を投げかけている。この組み合わせによる自然採光システムは、前述の自然換気システムとともに同ビルの高い省CO2性能を担保する新技術だ。

 

屋上に設置されたソーラーチムニーは太陽熱による自然換気システム

屋上に設置されたソーラーチムニーは太陽熱による自然換気システム

「MITとの共同研究は、自社ビル建築と同時進行で進められていたので、最初の段階で設計図が全部できあがっていたわけではありませんでした。従って、一方では予定通り工事を進めながら、他方では研究の成果をその都度現場に反映させるべく、現場にモックアップを組んでそこで実験したり、ゼネコンの研究所にデータを持ちこんで検証したり、ということを何度もくり返しました。そのため、工期に影響が出ないように調整にはずいぶんと苦労しました」(浦谷氏)

さらに、屋上には太陽光発電パネル、窓周りには断熱効果の高い木製ブラインド、人感センサーと光センサー連動のオフィス内LED照明など、さまざまな技術が惜しみなく導入された結果、同ビルはCO2排出量38%削減を実現(設計値では40%削減が可能)。CASBEEのSランクに相当し、また地上10階建て・延床面積2,325.60坪という中規模ビルとしては初めてDBJ Green Buildingのプラチナ認証を取得している。

「基本的には自社ビルですが、一般的な業態であればどんな企業様が入居されても使用できるような『省CO2型オフィスビルのプロトタイプ』になっています。また、この本社ビルで本邦初公開となったMITとの共同研究成果の最新技術などは、その後当社で建築した他のオフィスビルにも、改良を加えつつ導入しております」(浦谷氏)

 

屋上庭園の周囲は壁面緑化により環境に配慮した癒しの空間を提供

屋上庭園の周囲は壁面緑化により環境に配慮した癒しの空間を提供

使いながらメンテナンスし、建物の長寿命化を実現する

本社ビル新築に当たって、同社はもうひとつ「長寿命化」というテーマを打ち出している。スクラップ&ビルドからサステイナブルデザインの時代になったといわれて久しいが、建物の長寿命化を実現するのはたやすいことではない。たとえどんなに頑丈に造られた建物であっても、形ある物はいつか必ず壊れる。設計段階、建築段階でそれぞれ工夫を凝らしているだけでは充分ではなく、竣工後、じっさいに運用され始めてからの“ケア”がより重要になってくる。

 

執務スペースの天井は自然採光を反射させることで明るさを増幅する

執務スペースの天井は自然採光を反射させることで明るさを増幅する

「100年後の未来まで現役のオフィスビルとして使い続けることができるように、躯体の長寿命化はもちろんですが、それと同時に、オフィスとしての機能を維持したままメンテナンスを行うことが可能となるようにさまざまな対策を施しています。たとえば、屋上に清掃用のゴンドラを設置していますが、このクラスのビルとしてはかなり大型の物なのにお気づきでしょうか?
これは窓ガラスの清掃だけでなく、窓枠やサッシュの改修やメンテナンスを行うケースを想定して、そのために必要な機材などを積載したときの荷重に耐えられるように計算しているのです。また、3基あるエレベーターのうちの1基は天井が開くようになっていて、修理時に長い部材なども積み込めるようにしてあります」(浦谷氏)

 

自然採光システムと自然換気システムで快適な就労環境の執務エリア

自然採光システムと自然換気システムで快適な就労環境の執務エリア

近年は環境面への配慮から建物の長寿命化に取り組むゼネコンやデベロッパーが多いが、それらはどうしても超高層などの大規模ビルが中心になりがちで、同社のように中規模オフィスビルにおける長寿命化に取り組んでいる企業はあまり見かけない。しかし、国内企業の大多数を中小企業が占めているように、国内のオフィスビルの大多数は中規模以下の物件が占めているという現状があり、ここに積極的に取り組んでいかない限り建物の長寿命化というテーマは実現できないだろう。また、「もったいない」という日本語が国際共通語となっているように、「古くなったら、

非常食や水などの備蓄は災害時にすぐ取り出せるようロッカーに常備

非常食や水などの備蓄は災害時にすぐ取り出せるようロッカーに常備

まだ使える物でも捨てて、新しい物を買う」ことが美徳だった大量生産・大量消費の時代はとうに過ぎ去り、現代は「小まめにメンテナンスしながら、ひとつの物をできるだけ長い間使い続ける」ことが美徳とされる時代である。「オフィスとして使用し続けながら、メンテナンスによって長寿命化を図る」という同ビルのアプローチは、まさに時代にマッチした考え方だといえる。

「ただし、もし長寿命化のために使いにくくなってしまったとしたら、それは本末転倒です。長寿命化や省CO2など環境への配慮は、あくまでオフィスワーカーの働きやすさ、快適さと両立するものでなければなりません」(浦谷氏)

 

 

社員のアメニティを重視し、働きやすいオフィスを目指す

地上10階建ての同ビルでは、1階がエントランス、2階に社員のためのカフェテリアや大会議室などが設置され、3階に応接室や来客用会議室を集約し、4階以上が社員の執務エリアという構成になっている。エントランスは白大理石を基調とし、清潔感にあふれる格調高い空間となっていて、入口から正面に2階へ続く階段が設けられている。

2階のカフェテリアではバラエティに富んだ食事を社員に無料で提供している。その隣に大会議室、さらにその奥に4人掛けのブースが複数設置された打ち合わせコーナーがある。ただし、これは通常時の構成で、中間にある大会議室の間仕切りは可動式のスライディングウォールであり、必要に応じてカフェテリアや打ち合わせコーナーと接続し、300~500人を収容可能なカンファレンスホールに変貌する。各種のイベント会場やパーティ会場としても使用できる、フレキシブルな大規模空間となっているのである。さらに、3階には大小合わせて14室の会議室・応接室が設置されており、目的や人数、用件に合わせて使い分けられる。これらの接客スペースが充実していることは、取引先との商談はもちろんのこと、就職説明会などでリクルーティングにも高い効果を生み出しているという。

「これ以外にも、10階には役員会議室や応接室があり、4階から9階の執務エリアには社内ミーティングに使用できる打ち合わせコーナーが各フロアに設置されています。さらに2階のカフェテリアや屋上庭園を使うこともできるので、コミュニケーションという面でも非常に充実した環境になっているものと自負しております」(浦谷氏)

3階の接客エリア正面には、同社の過去の表彰実績を多数展示している

3階の接客エリア正面には、同社の過去の表彰実績を多数展示している

2階カフェテリア。ノートPCを持ち込んで仕事をすることもできる

2階カフェテリア。ノートPCを持ち込んで仕事をすることもできる

 

 

ビルの外観上のアクセントにもなっている窓の30cm幅のリブ柱は、建物を支える構造体であり、これによって室内には余計な柱が一切ない、ひろびろとした空間を確保している。執務エリアの什器には可変性の高いシステムファニチャーを導入し、組織改編や異動などの変化にもスピーディに対応することができるという。

さらに、屋上庭園は社員のためのアメニティスペースとして開放されている。本誌取材当日はあいにく前日までの雪が残っていたが、気候の良い季節にはランチタイムに利用したり、喫煙所として利用する社員も多いという。移転1年目の2013年の夏には、隅田川の花火大会に合わせて屋上庭園で社員限定のビアガーデンが開催された。

「このほか、2014年10月から5階に保育室を設置する予定です。これは当社のCSRのひとつに少子化対策への貢献があり、管理職の20%を女性社員とする目標を掲げるなど、女性に長く働いていただけるような社内環境づくりにも取り組んでいます。また、保育室は地域の皆様へも開放し、地域貢献に役立てていきたいと考えております」(浦谷氏)

同社は2014年度から「駅と未来に近いビル。」という新しいコーポレートスローガンを発表し、3ヶ年の新中期計画がスタートしている。新本社ビルを舞台に、同社のさらなる挑戦の日々が続く。

 

2階大会議室。左右の間仕切りは可動式のスライディングウォール

2階大会議室。左右の間仕切りは可動式のスライディングウォール

3階の会議室のひとつ。このフロアだけで全部で14室の会議室がある

3階の会議室のひとつ。このフロアだけで全部で14室の会議室がある

PICK UP!

執務エリア
自然採光システムと自然換気システムで快適な就労環境の執務エリア
カフェテリア
2階カフェテリア。ノートPCを持ち込んで仕事をすることもできる
会議室
2階大会議室。左右の間仕切りは可動式のスライディングウォール
会議室
3階の会議室のひとつ。このフロアだけで全部で14室の会議室がある
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