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7月

20

2012

首都圏 渋谷駅前再開発

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いまや東京主要5区の中でもっとも賃料相場が高く、空室率は比較的低い水準で推移する渋谷区。ファッションと流行の街だけでなく、今やビジネス街としても注目の的だ。

 

2012年4月にオープンした「渋谷ヒカリエ」は、渋谷駅前の新しいランドマークとして早くも定着しつつある。同ビルはリーマンショック以降、ここ数年めったに聞かれなくなった「竣工前満室稼動」、つまり開業時テナント入居率100%を達成したことで、ビルオーナーやデベロッパーの関心が高い。今後、さらに注目が集まるシブヤの未来図を展望した。

 

 

需要が供給量を上回る街、「渋谷駅前」が今、熱い。

ビットヴァレーの盛衰と渋谷のオフィスビル供給

 

森トラスト(株)が毎年発表している「東京23区の大規模オフィスビル供給量調査 ’12」によると、2012年に東京23区内で供給される大規模オフィスビル(オフィス延床面積1万㎡以上)の合計は約54万坪となる見込みだという。これは、約67万坪の大量供給によって「オフィスの2003年問題」と騒がれた2003年に次いで、直近10年間で2番目に多い供給量となる。

冒頭で紹介した「渋谷ヒカリエ」の竣工も、2012年のオフィスビル大量供給の一環である。ただし、同ビルを際立たせているのは、渋谷駅前という「特殊な環境」だろう。23区の中で「主要5区」に数え上げられる一大ビジネスゾーンであり、新宿、池袋、大崎などとともに東京都が策定する7大副都心のひとつでありながら、渋谷駅周辺は大規模なオフィスビル供給がきわめて少ないことで知られている。

10年以上も前の話になるが、渋谷が「ビットヴァレー」などと呼ばれ、ITベンチャーの聖地として一時代を築いたことがあった。当時の渋谷には、渋谷インフォスタワー(1998年3月竣工)や渋谷マークシティ(2000年2月竣工)、セルリアンタワー(2001年3月竣工)など、毎年のように大規模ビルが供給されていた。大小さまざまなITベンチャーが先を争ってこれらのビルに入居し、オフィスマーケットは活況を呈していたものだった。しかし、ITバブルと呼ばれた好況期はわずか2年足らずで破綻。セルリアンタワーを最後に、ヒカリエの竣工までじつに10年以上にわたって渋谷駅周辺での大規模ビルの供給はストップしていたのである。

 

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むろん、その間渋谷に新規供給がまったく途絶えていたわけではなく、基準階床面積100坪未満の、いわゆるミドルサイズ、コンパクトサイズと称される中型ビルはそれなりに供給されていた。しかし、大手企業が本社機能を入居させてくるような、すなわちエリアのビジネス環境を劇的に変化させるようなキャパシティを持った大規模オフィスビルは、長らく渋谷では供給されてこなかったのである。

ビットヴァレーの崩壊後、かつて渋谷にオフィスを構えていたITベンチャーたちの多くは集合離散をくり返し、ひと握りの勝ち組だけが生き残って、さらなる成長を成しとげた。現在も引き続き渋谷マークシティに本社を構える(株)サイバーエージェント、セルリアンタワーに本社を置くGMOインターネット(株)のような例もあるが、中には六本木に本拠を移して「ヒルズ族」となり、その後紆余曲折を経て、韓国系企業NHNJapan(株)に吸収合併される形でこの秋ふたたび渋谷に戻ってくる(株)ライブドア〔旧社名:(株)オン・ザ・エッヂ〕のような例もある。また、ビットヴァレーの商標権を保有するカルチュア・コンビニエンス・クラブ(株)も、2011年に開業した「代官山プロジェクト」に続いて、渋谷駅周辺での動きが噂されている。

 

渋谷を起点とする新たな交通ネットワークの誕生

渋谷ヒカリエの着工は2009年7月。当時すでに、日本経済はリーマンショック後の先行きの見えない不況に突入していた。こうした状況下で同ビルの建設がスタートした背景には約1年前、2008年6月の「東京メトロ副都心線」開通による影響が考えられる。

そもそも渋谷駅は、単独でも国内有数の規模を誇るターミナルステーションのひとつだ。副都心線はその渋谷駅を、同等以上の規模を持つターミナルステーション、新宿駅・池袋駅と直結させたのである。これにより、神奈川方面には渋谷駅(東急東横線・田園都市線ほか)、千葉方面には新宿駅(JR中央線・総武線ほか)、埼玉方面には池袋駅(JR埼京線、東武東上線、西武新宿線ほか)・新宿駅(西武新宿線ほか)という、首都圏1都3県をカバーする巨大なネットワークが誕生した。副都心線は現在、東武東上線および西武池袋線との相互乗り入れによる直通運転を行っているが、2012年中には東急東横線との相互直通運転も開始される予定で、現在、東急東横線渋谷駅~代官山駅の間で地下化工事が急ピッチで進められている。

ちなみに、渋谷ヒカリエの地下3階エントランスは、副都心線渋谷駅と直結している。今後、東急東横線の地下化が完成し、副都心線との相互乗り入れが開始されれば、首都圏の交通アクセスはさらに劇的に変化し、交通の要衝としての渋谷の利便性はこれまで以上に高まるものと推測される。

いや――すでに現在、ビジネス拠点としての渋谷駅前の価値は、丸の内などの伝統あるビジネス街と比べてさえ、決して見劣りのするものではない。丸の内や霞が関を有する千代田区は、2012年6月度における大型ビル(基準階床面積100坪以上300坪未満)の空室率は7.36%、推定成約賃料は16,361円である。これに対して、渋谷区の同時期の数値は空室率7.39%、推定成約賃料17,846円となっている(いずれもビルディング企画調べ)。テナントの人気や注目度を示すビジネス街のバロメータである空室率ではわずかに0.03%及ばないものの、ビジネス街のステータスである賃料相場では逆に1,500円近くも引き離しているのである。東京主要5区でもっとも賃料相場が高いということは、とりもなおさず、オフィスの賃料相場が日本一高い街ということになる。

この高額な賃料相場を支えているのが、不況の中でも元気の良い成長企業たちだ。

 

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たとえば、渋谷ヒカリエのテナントのうち、同ビルの全面開業に先駆けて4月16日からいち早く入居を開始したのが(株)DeNAである。ビットヴァレー全盛時代の1999年に創業した同社は、その後、人員増員や事業規模拡大に伴って笹塚・代々木・初台などに本社を移転してきたが、常に渋谷区からは離れようとしなかった。そして今年、約12年ぶりに供給された大規模ビルである渋谷ヒカリエに移転。21階~26階の計6フロアを使用し、「社員がつながる アイデア創出型オフィス」づくりに取り組んでいる。同社のプレスリリースによると、移転を機に新たな福利厚生制度を導入するなど、さらなる事業規模の成長を目指しているという。

 

また、5月7日に渋谷ヒカリエの18階と30階に入居したほけんの窓口グループ(株)〔旧社名:(株)ライフプラザホールディングス〕のように、来店型の営業スタイルの場合、話題性の高い新築のランドマークビルにオフィスを構えるということが、そのまま来店客数や売上の増加につながるものと見込んでいる。このように、テナント企業のブランディングとの相乗効果により、ビル自体のブランド力が高まることも期待されている。

 

さらなる再開発計画と渋谷駅前の未来予想図

約12年ぶりの大規模オフィスビル供給となる渋谷ヒカリエの竣工だが、しかし、これは渋谷駅前で予定されている再開発計画の第一歩に過ぎない。

ここで、渋谷駅前で予定されている再開発計画をひと通りおさらいしておこう。

 

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そもそもの発端は2002年、渋谷区が「渋谷駅周辺整備ガイドプラン21」を策定したことに始まる。2007年には、より具体的な「渋谷駅中心地区まちづくりガイドライン2007」が策定され、事業化に向けた検討と調整がスタートする。2008年には前述の通り副都心線が開通し、これ以降、さまざまな計画が急速に具体化していく。2010年には渋谷区が「渋谷駅中心地区まちづくり指針2010」を策定。2011年に「渋谷駅中心地区基盤整備方針」が策定される。

 

副都心線開通前後の2008年~2009年にかけて、渋谷駅前ではいくつかの再開発計画の準備組合が設立されている。たとえば、渋谷駅南口の「渋谷東急プラザ」建て替え計画を含む道玄坂一丁目駅前地区の再開発に関しては、2008年7月に準備組合が設立され、2012年度中の都市計画決定、2013年度中の本組合設立を目指している。順調にいけば2014年に着工、2017年には高さ約160メートルの超高層ビルが竣工することになるという。

 

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また、渋谷駅西口の桜丘口地区の再開発については2005年ごろから事前調査が進められていたが、2008年8月に準備組合が設立しており、2013年頃の都市計画決定を目指している。こちらは早ければ2015年に着工し、高さ約140メートルのビルが2017年の竣工を予定している。

渋谷駅の新南口、渋谷川沿いでは、高さ約180メートルの超高層ビルの建設が予定されている。この渋谷駅南街区再開発計画は、2014年着工・2016年竣工を予定しているが、現時点では準備組合の設立にも至っていないようすで、上記の道玄坂一丁目駅前地区、渋谷駅桜丘口地区と比べても進捗は遅れているようだ。

そして、最後に控えているのが渋谷駅の新駅ビルとなる渋谷駅街区である。今年3月に日経新聞が報じたところによれば、新駅ビルは東棟高さ250メートル級、西棟高さ210メートル級のツインタワーを計画しているという。とりわけ東棟は渋谷の新しいシンボルとして、現在東京一の高さを誇る赤坂9丁目のミッドタウンタワー(248.1メートル)を上回る東京最高層とすることも検討されている。東棟・西棟ともに国道246号線沿いに建てられ、中層棟で2棟をつなぐ形になるようだ。着工は2015年、そしてツインタワーの竣工は2026年を予定している。

 

渋谷駅周辺で予定される再開発計画

 

2010年から16年がかりの計画となる新駅ビルを筆頭に、2014年~2015年には渋谷駅周辺で大がかりな再開発工事が始まる見込みだが、土地の取得や既存ビルの取り壊し計画についてはある程度具体的になってきているものの、まだまだ現時点では未知数の部分が多いようだ。もちろん、竣工後にどういったテナントが入居するのかといった情報などはまったく入ってきていない状況だ。ヒカリエの竣工を機に、ここへきて「ビットヴァレーの復興」を目指す動きが見られるようになってきたのは事実だが、それが10年以上も継続するムーヴメントとなるかどうかはまだ何とも言えない。

とはいえ、今から14年後の2026年にも、渋谷駅を中心とするエリアに膨大な人の流れが続いていることは間違いないと思われる。この人の流れと、今後新たに誕生するであろう駅前の超高層ビル群が、現在の渋谷ならぬ未来の「シブヤ」を牽引していくことはほぼ確実といえるだろう。

 

地名の由来は? “渋谷”のトリビア・こぼれ話

道玄坂に宮益坂、金王坂、八幡坂、スペイン坂やオルガン坂と、渋谷の街には坂が多いことで知られている。渋谷という地名に「谷」の字が入っていることからもわかるように、このあたり一帯は谷間の地形となっており、渋谷駅は坂で囲まれた「谷の底」に位置している。

渋谷という地名の由来にはさまざまな説があるが、渋谷区のホームページでは「昔、この付近は入江であり、『塩谷の里』と呼ばれていた。この『塩谷』が『渋谷』に転訛した」という説、「平安時代末、このあたりの領主であった河崎重家が、渋谷某という賊を捕えた功により『渋谷』の姓を与えられた。これにより、領地の地名が渋谷に変わった」とする説、「この地を流れる川の水が鉄分を多く含み、赤サビ色(渋色)をしていたために『シブヤ川』と呼ばれていたことから地名がついた」とする説、「渋谷川流域の低地が、しぼんだ谷間だったから」とする説などが紹介されている。

谷間といえば、かつて渋谷駅前にはロープウェイが設置されていた。ロープウェイといっても正式な交通機関ではなく、観光用、あるいは遊覧用の施設であったらしい。「ひばり号」と名づけられたこのロープウェイは、子ども専用で定員は12名。1951年(昭和26)から1953年(昭和28)まで、東横百貨店(現在の東急東横店東館)屋上から、玉電ビル屋上(現在の同西館)との間に渡されていたという。

なお、渋谷ヒカリエは「谷の底」にある渋谷駅の立地を逆用し、駅と渋谷界隈の街並みと接続する大規模な歩行者ネットワークを形成している。

 

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